一麹、二酒母、三造り。日本酒造りで最も大事な麹造りと米を蒸す工程

2017年5月6日

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日本酒造りの工程、「米を蒸す」と「麹造り」

日本酒の味わいは、日本酒によって様々です。

スッキリ軽い日本酒もあれば、どっしりとして深い味わいのもの、

米の味わいが楽しめるものに、フルーティーな香りがするもの、

原料は同じ米なのに、とても幅広い味わいが楽しめるのが日本酒です。

こういった幅広い味わいを楽しむためには日本酒を造る杜氏や蔵人の繊細な仕事が不可欠。

今回は日本酒造りの工程の中でも重要、かつ繊細な工程である「麹造り」と、その前工程である「米を蒸す」について書いていきます。

麹造りはどうか知らんけど米を蒸す、なんて米を蒸すだけだろ?と、侮るなかれ、相当繊細な工程ですよ!日本人、やっぱどうかしてるわ(笑)

酒造好適米は炊くのではなく、蒸す

私たちが普段食べているお米は「炊く」わけですが、日本酒を造る際には酒造好適米を洗米・吸水させた米を、

甑(こしき)という大型せいろと釜で「蒸す」という作業を行います。

甑には昔ながらの杉材でできた木製のものと、最近では洗浄や殺菌が容易なアルミニウムやステンレス製のものも出てきています。

そもそもなぜ日本酒造りでは米を炊くのではなく蒸すのでしょうか?

その理由は3つ。

第一に米のでんぷん質を適度に糊化し、糖化しやすい状態にするため。

第二に米を完全に殺菌するための加熱処理。

第三に蒸し米の理想は「外硬内軟」で、外はさらさらで硬く、米同士がパラパラとしてくっつかないようにし、

中心部は柔らかく水分が保たれている状態にするためです。

炊いてしまうと米が水分を吸収しすぎてしまうんですね。

そのため、日本酒を造る米は炊くのではなく蒸す、というわけです。

良い蒸し米を作る準備

良い蒸し米にするための条件は、砕米を無くし、真精米歩合を高くすること。

真精米歩合について、詳しくはこちら
米は酒の命!どんなお米が日本酒に向いてるか?

加えて、吸水率をぴったりと合わせてやることです。

ぴったり合わせるなんて簡単に言いましたが、酒作りの蒸し米は、吸水率を極めて正確に合わせる必要があるんですね。

目標数値より多いと、蒸し米は「外硬内軟」ではなくベタつくことになってしまいます。

様々なお酒を造る酒造好適米ですが、中でも特に吟醸酒や純米酒用の米は精妙な吸水が必要。

吸水によっては酒造の計画から見直さなくてはいけなくなる、というんだからこれは相当気を遣う工程ですな。

で、その中でもさらに難しいのが・・・って、どんだけ難しければ気が済むんだ(笑)

麹に使う蒸し米を作るのが一番難しい。

麹の菌糸が水を求めて米粒の深いところまで伸びていくようにするには、米粒の外側には水分が無く、

内側にある程度水分が残っている状態に蒸し上げなければなりません。

さらに米の外側に水分が無ければ米同士がくっつがず、麹の生育と仕込み作業が楽になる、というメリットもあります。

米の表面の糠を水洗いする洗米作業、浸漬(吸水)作業も、麹米用のものは秒単位の時間まで管理します。

時間以外にも、

米の品種、

精米歩合、

当日の気温や水温、

米自体が持つもともとの水分量、

等々、等々が影響してきます。

とりわけ吟醸や大吟醸用の米は小さく磨かれており、数秒の差で水分含有量が変わってしまいます。

そらそうだ、ただでさえ小さい米粒の2割とか3割を磨いてるんだから・・・

吸水時間をストップウォッチによって厳格に吸水時間(限定吸水法)を管理している蔵も多いんですね。

予定の時間浸漬した米は水切りします。その後、米内部の水分分布を均一にするため一晩程度浸漬米の枯らしを行います。

通常は前日の午後に米を洗って浸漬、一晩かけて水を切り、翌朝に蒸す、という作業を繰り返していきます。

吸水した米を、蒸す

さて、ここまでで米を蒸す準備はできました。

ここから最初に出てきた甑(こしき)で米を蒸していきます。

米を蒸すのにかかる時間は45分から1時間。どこの蔵でも米を蒸す作業は明け方から早朝にかけて行われます。

この際に重要なことは、100度を超える高温かつ乾燥した強い蒸気で蒸すこと。

水分の多い蒸気で蒸すと、散々吸水率に気を使ったのに、表面に粘り気が出てしまうからです。

蒸気を乾燥させるため、ヒーターで蒸気を加熱、乾燥させる仕組みを作った蔵もあります。

クラスの高いお酒を造る際は、抜けがけ法と呼ばれるやり方を使う蔵もあります。

蒸気が上がってきた甑の中に、

少量の米を平らに広げ、

蒸気が吹き抜けたら、

仕切り布を敷いた上にまた少量の米を置く・・・

これを繰り返すことで、それぞれの米の層を一気に過熱する、というもの。

こうして文字にしただけで手間がかかるうえに、

精米歩合の違いや分量、さらに米の用途によって順序や時間を厳密に計画しなければならない、という非常に高度な技法です。

蒸し終わった米は甑から取り出され、冷やされます。放冷機を使ったり、昔ながらのやりかたで床に広げて寒冷な冷気で冷ます蔵もあります。

蒸し米は麹に使われるものと仕込みに使われるもの(掛け米)に分けられます。

掛け米の中にも、「酒母用」「添用」「仲用」「留用」と4種類があり、それぞれ仕込みに向いた温度が数度単位で違ってきます。こ、こまけぇ・・・

目標温度になった蒸し米は、使用目的に応じて麹室や酒母室、タンクなどに送られます。

続けて、麹についてみていきましょう。

麹とは

麹とは、黄麹菌の胞子を蒸し米に繁殖させたもの。

日本酒の原料となる米は、でんぷんが多いものの糖類を含みません。つまり、そのままではアルコール発酵ができないんです。

でんぷん質はブドウ糖でできていますが、そのブドウ糖は固く連鎖した分子構造をしており、これを麹によって分解(糖化)します。

麹はでんぷんを分買いするための酵素を多量に生産することに加え、酵母の栄養となるビタミンも生成してくれるんです。

さらに副産物として、酸類やアミノ酸、芳香物質も造り出し、出来上がったお酒の風味を豊かにしてくれます。

さらにさらに、麹は酒母にも醪にも使わる・・・という、麹造りは酒造りで最も重要な工程なんですね。

麹造りの工程1:「引き込み」
麹の造り方は、まず出来上がった蒸し米が30℃から35℃に冷えたら、麹室という麹造り専用の部屋に運び込む、という作業。

麹室は麹菌が繁殖しやすい、温度30℃、湿度60%くらいに保たれた部屋で、かつ温度・湿度を微妙に調整できる構造を持っています。

麹造りの工程2:「床もみ」
運び込んだ蒸し米に種麹と呼ばれる黄麹菌の胞子を振りかけてよく混ぜ込みます。

麹造りの工程3:「もみ上げ」
続いてひとまとめにして積み上げます。さらに布をかけて保温し、そのまま置きます。

10~14時間ほど置きっぱなしにすると、蒸し米はカタマリになります。

麹造りの工程4:「切り返し」
これを米の温度を一定にするため、いったんバラバラにほぐし、それから再びまとめて保温します。

麹造りの工程5:「盛り」
丸一日たつと麹菌がかなり繁殖してくるので、これを麹蓋という小さな木の箱に小分けにします。

麹造りの工程6:「手入れ」
再び温度が上がった麹をかき回して米を広げます。

麹造りの工程7:「積み替え」
さらに麹蓋の場所を適宜入れ替えて、温度と菌糸の育ちを均一にする作業を行います。

麹造りの工程8:「出麹」
約50時間して、クリのような香ばしい香りがしてきたら、麹室から麹を取り出します。

麹造りの工程9:「枯らし」
取り出した麹を暗く乾燥した場所で20時間ほど寝かせます。

ここまでの工程で丸3日ほど。

さらに工程の途中で適宜麹をかき混ぜたりしないといけないため、お酒を造っている蔵人は睡眠をたびたび中断して作業を繰り返すのです。

そう考えると、さらに日本酒のありがたみが増してきますなぁ~。

麹造りのカギ、「はぜ」

日本酒造りで大切なことは、一麹、二酒母、三造りといわれます。

つまり麹造りが一番大切である、というわけ。

麹造りのカギは「はぜ」。はぜは「破精」と書き、蒸し米に菌糸が繁殖して白く見える現象のことです。

米の表面にはぜが広がっている状態を「はぜ廻り」、中心部に菌糸が入った状態を「はぜ込み」と言います。

良い麹の一つが「総はぜ」と呼ばれるもの。

一般的な酒造りによく使われる麹で、はぜ廻りもはぜ込みも適当に入っている状態のものです。

もう一つが「つきはぜ」と呼ばれるものです。

表面には菌糸が点々とついている反面、中心部に菌糸が詰まった状態の麹で、留用の麹などに向いています。

出来上がるお酒が上品で淡麗になるとされ、吟醸酒や大吟醸酒によく使われます。

ちなみに失敗した麹は「ばかはぜ」と「ぬりはぜ」と呼ばれるものがあります。

「ばかはぜ」ははぜ廻りもはぜ込みも過剰で、麹菌がつき過ぎた状態のこと。

「ぬりはぜ」ははぜ廻りはいいけどはぜ込みが悪く、中心部に菌糸が入り込まず、表面にだけ浅くついた状態を言います。

こんだけ気を使って作った麹が失敗しちゃったとなれば気持ちは分からんでもないですが、「ばかはぜ」はあんまりじゃないだろうか(笑)

まとめ

・酒造好適米は外硬内軟に仕上げるため、炊くのではなく蒸します
・特に吸水量の管理は秒単位で行うくらい繊細です
・麹造りは3日間にも及び、その間蔵人たちは睡眠もままなりません
・麹造りに重要なのは「はぜ」。米の表面や中心へ菌糸が伸びているのが重要です

日本酒造り、知れば知るほど繊細です。

元の大きさの7~8割くらいまで削った米に、菌糸を狙った通りにはぜ込ます、ってどんだけ繊細なのかと!!

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