酵母による酒母造りから出荷まで。やっと日本酒が私たちの手元に届きます!
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日本酒造りの後半戦
さて、米を蒸したり麹菌を米に這わせたりと、繊細な作業が続いてきている日本酒造りですが、
今回の記事では一気に出荷されるまでを見ていこうかと思います。
麹造りが日本酒造りで最も重要で、繊細だというのは前回の記事で書きました。
→一麹、二酒母、三造り。日本酒造りで最も大事な麹造りと米を蒸す工程
じゃぁここからの行程は繊細ではないかというと全然そんなことはなく(笑)
新たに酵母という菌が出てきたり、しぼるタイミングの見極めだったりと、やっぱり繊細な行程が続きます。
一般的な造り方を書いてるだけなのに、繊細すぎて、ありがたすぎて、日本酒愛が深まってしまう・・・
日本酒、恐るべし(笑)
酵母の働き
米に水を吸わせ、蒸し米にしました。
そこに黄麹菌の菌糸を這わせ、麹を造ります。
麹は米のでんぷん質を分解し、糖質を作り出します。
この糖質を分解し、アルコールを造るのが、酵母の役割になります
日本酒を造るには、「麹」がでんぷん質を分解して糖質にし、その糖質を「酵母」がさらに分解してアルコールを造る、という過程を辿る、というわけです。
ちょっと話は変わりますが。
日本酒は米を主な原料としていますが、吟醸酒や大吟醸酒の中にはナシやリンゴ、桃などの果物や花の香りを放つものがあります。
穀物である米には存在しないはずのそれらの香りを日本酒が持っているのはなぜなのでしょうか。
その要因の一つが、「酵母」の違い。
ところが、吟醸用の麹がでんぷん質を分解するスピードはとてもゆっくりなんですね。
そのため、でんぷん質が糖質にならないと栄養が摂れない酵母は、常にお腹を空かせた状態になる、というわけ。
また、吟醸酒は精米歩合が高い。ということはつまり、米のたんぱく質などの栄養素がほとんど削り取られてしまっているので、余計にお腹が減ってしまう。
さらに極低温で発酵させるので、生物としてのストレスがやたらにかかった状態になります。
そのため、酵母の代謝に異変が起こり、果実香のもととなるエステル類を生み出し、豊かな吟醸香につながっていきます。
このように、日本酒造りの最終工程を担ったり、吟醸香を発生させる、様々な役割を果たすのが酵母、というわけです。
酵母の種類
酵母には大きく分けると泡あり酵母と泡なし酵母があります。
要するに発酵時にボコボコと高い泡を出すのが泡あり酵母で、泡が低く少ないのが泡なし酵母。
もともとの酵母の性質は泡あり酵母なのですが、発酵中の泡はかなり高く上がるため、タンクから泡が飛び出さないように見回りが必要だし、
タンクも大きくなければならない上に泡には雑菌が入りやすいんですね。
泡なし酵母は泡あり酵母の突然変異で、泡が高く上がることによる難しさを解消してくれる酵母。そのため、現在では多くの蔵で泡なし酵母が使用されています。
ただし、泡あり酵母がゆっくりと発酵が進むのに対し、泡なし酵母は発酵が早い。
そのため、醪の温度を抑えたりといった対処が必要になります。
現在多く使われている酵母は日本醸造協会が販売しているもの。
協会酵母の6・7・9・10・11・14号系、泡なしの1501号系などです。
使用頻度が高いのは、
華やかな香りで吟醸酒から普通酒まで幅広く使われる7号系。
華やかな香りが出て吟醸香も高い9号系がよく使われます。
各県、各地域でも様々な酵母が開発されており、蔵によっては自家酵母を使う蔵もあります。
酒母について
酵母は糖類を分解してアルコールを生成するわけですが、大量の米を発酵させるためには大量の酵母が必要です。
その準備として、少量の醪の中で大量に酵母を培養した強力な発酵のスターターが必要になります。これがつまり酒母と呼ばれているもの。
酒母には大きく分けて生もと(きもと、もとは酉に元)系と即醸系の二種類があります。
酵母が順調に仕事をして酒母を造るためには、雑菌や空気中に自然に存在する野生酵母を入れないことが重要。
そのために酒母に酸を発生させるのですが、この酸を自然の乳酸菌に生成させるのが生もと系酒母。
最初から乳酸を添加するのが即醸系酒母です。
生もと系は酒母完成までに30日ほどかかりますが、即醸系は15日ほどで酒母が完成します。
現代ではこの即醸系酒母を使った日本酒が大半ですが、それは最初に乳酸を加えているので雑菌が繁殖したりせず、安定しているから。
それに対して生もと系は自然環境下で乳酸を生成させるので管理は困難を極めます。
それでも生もと系の酒母を用いる蔵があるのは、生もと系ならではのお酒が造れるから。
生もと系で使われる酵母は、多くの微生物や雑菌に勝ち抜いてきただけにやたらに強く、たくましいんですね。
そのため非常に安定した品質となり、2~3年は若々しさを保つほどなんです。
やっぱりある程度競争とか勝ち抜くってのは大事なんですなぁ~。
生もと系酒母の造り方
生もと系酒母の造り方は、以下のような手順になります。
1.仕込み
1日目作業。布に包み、10数時間冷やした蒸し米と麹、水を半切り桶と呼ばれる底の浅い桶に入れます。そのまま手で全体を混ぜ合わせます。
2.手もと(もとは酉に元)
1日目作業。しばらくたって米が水分をすっかり吸収したのち、木のへらで攪拌すること。この作業が終わったら布をかぶせてそのまま置いておきます。
3.もとすり(もとは酉に元)
2日目作業。早朝に、半切り桶に入った蒸し米と麹を蕪櫂(かぶらがい)で3回にわたってすりつぶします。この作業は山卸(やまおろし)とも呼ばれ、大体二人一組で行われます。
ちなみにたまに日本酒に書かれている「山廃」ですが、このもとすり、つまり「山」卸を「廃」して酒母を仕込む方法をとったもののことをいうんです。
4.酒母タンクへ
2日目作業。午後になると、いくつかの半切り桶の酒母を酒母用の小タンクに集めます。
5.打瀬
酒母タンクに集めたのち、3日くらいは低温でおいておきます。この期間が打瀬。
6.暖気入れ(だきいれ)
3日おいて仕込みから5~6日目。暖気樽という道具で少しずつ酒母の温度を上げていきます。暖気樽は湯たんぽのような仕組みで回したり沈めたりといろいろな形があります。
こうして暖められると、麹の働きによって糖化が進んでいきます。この時点で乳酸菌の働きが活発になり、ヨーグルトのようになめらかになります。
食べると甘酸っぱく、やっぱりヨーグルトのよう。
7.清酒酵母の添加
2週間前後で酵母が投入されます。乳酸菌で支配された中から急速に酵母は増殖を始め、ぶつぶつと炭酸ガスの泡が盛んに出てきます。
15~16日前後で盛んに泡が出てきます。この状態が「ふくれ」と呼ばれます。
8.高泡
18~20日くらいで、酵母が盛んに増殖、泡が盛んに上がる状態のこと。ここから4~5日程度で、酒母は本仕込みに使用されます。
仕込み&醪(もろみ)
こうして麹と酒母が完成すると、本仕込と呼ばれる工程に入ります。
日本酒は「添(そえ)仕込み」「仲仕込み」「留仕込み」の三段仕込み、4日に分けて仕込みを行います。
これらの仕込みはタンクの中で行い、発酵が進んでいくわけですが、この発酵しているものが醪(もろみ)と呼ばれるもの。
つまり醪は、「蒸し米」や「麹」や「酒母」といった材料を使って仕込み、出来上がったもののこと。最終的にはこの醪を絞ったものが清酒になります。
さて、醪ができあがるまでの4日間の工程を見ていきましょう。
1日目:添仕込み
桶、またはタンクに出来上がった酒母、麹、水と蒸し米をいれて混ぜます。
2日目:踊り
酵母の増殖を充分に進ませて圧倒的有意な数になるのを待つために1日休ませる工程です。
3日目:仲仕込み
さらに麹・蒸し米・水を足します。
4日目:留仕込み
さらにさらに麹・蒸し米・水を足して仕込みを完了します。
仕込みの分量は、
「添仕込み」が全体の6分の1、
「仲仕込み」が全体の6分の2、
「留仕込み」が全体の半分、となります。
少量から増やしつつ仕込む理由は、常に酵母が満員の状態にして、他の雑菌が入り込む余地をなくすため。そのため、酵母が増えてから材料を足す、というわけです。
さぁさぁ、もう少しで日本酒が完成しますよ!!
醪を、しぼる
醪の発酵が進み、最終段階までいくと白濁したにごり酒の状態になります。この状態では法律上清酒とは呼べません。
この醪をしぼることを「上槽」といいます。「しぼる」または「こす」ことによって醪は晴れて清酒になる、というわけ。
この上槽する日は、杜氏が決定します。
ちなみに杜氏は酒造りの統括者で、蔵人は酒造りに関わる人。
スポーツで言えば、蔵人が選手で杜氏が監督、というかんじでしょうか。
つまり、上槽する日は監督である杜氏にしか決定できない、ということ。
なぜかというと、発酵の終盤の醪の状態は日々刻刻と変わるから。同じ時期でも天気・気温は毎年違いますから、
毎日酒質検査(日本酒度とアミノ酸度を計る)を行いながらアルコール生成の進行具合を確認し、作業を調整しながら、
糖化、発酵、アルコールと炭酸ガスの生成とその勢いを視覚的に確認しつつ酵母が元気なうちに絞るタイミングを見極め・・・
まぁ、とにかく、難しいんで、杜氏が判断するということです(笑)
このタイミングをばっちり見極められる杜氏が、名杜氏と呼ばれるんですね。
さてさて、杜氏が上槽の日を決め、上槽をします。上槽以降の工程は以下のようになります。
1.上槽
上槽すると、まずは強く荒々しい酒が出てきます。これを「荒走り」と呼びます。つ、強そうな名前・・・力士っぽい?パワーが売りで、突き押し、寄りで圧倒する相撲を取る・・・みたいな。どうでもいいか(笑)
続いて、安定したお酒が出てきます。これを「中取り」と呼びます。
で、最後の方に出てくるのが「押し切り」。
「荒走り」なんかは季節限定で売り出されたりもしますが、通常は最終的に混ぜられるので各々のパートを飲むことはできません。
2.おり引き
しぼりたての原酒は淡くにごっているので、タンクに10日ほど置いて細かな固形物を沈殿させ、上澄み部分を取り出します。これを「おり引き」と言います。
「おり引き」後、活性炭ろ過をしてより澄ませるのが一般的。
3.火入れ
おり引き直後はまだ糖化酵素やらの酵素がまだ残っている状態のため、貯蔵時に品質が変わる可能性があります。
殺菌及び酵素の活性を止め、酒質を安定させるため、火入れを行います。
火入れとは、直接火にかけるのではなく60~65℃くらいのお湯で間接的に加熱すること。
ちなみにこの火入れは、フランスのパストゥールが「低温殺菌法」を発見する何百年も前、江戸時代には確立されていました。日本人自己アピールヘタだなぁ・・・(笑)
4.貯蔵
火入れ後、貯蔵用タンクに入れられた新酒はひと夏を蔵で過ごします。
しぼりたての酒は角が立っていますが、この「貯蔵」中に熟成が進むと丸くなり、味がのってきます。
通常は蔵の中で行われますが、変わったところでは土蔵、洞窟、廃校になった炭坑や海底坑道、海中貯蔵などを行う蔵も。
要するに年間通じて気温が一定で、紫外線が入らない場所で貯蔵する、ということ。日本酒は直射日光や温度変化に敏感に反応するんですね。
5.加水
この段階の原酒はアルコール度数が20度前後と高いので、水を加えて度数と味のバランスを調整します。この水の多くは仕込み水と同じ水が使われます。
6.火入れ(2回目)
殺菌のための2度目の火入れ。
この火入れが終わったのち、ビン詰めされて出荷されます。
ちなみに通常は火入れを2回行うわけですが、2回の火入れを入れるか入れないか、どう入れるかで呼び方が変わってきます。
1回目の火入れはするけど、2回目の火入れはしないのが「生詰(なまづめ)」
1回目の火入れをせず、2回目の火入れをするのが「生貯蔵酒」
火入れを全然しないのが「生酒」と呼ばれます。
お酒の種類にもよりますが、大まかに言ってこのような工程で日本酒は我々の手もとに届くというわけです。
工程を知るとまた、日本酒のありがたみが増すってもんですよ!!
まとめ
・麹がでんぷんを分解して造った糖を、酵母が分解してアルコールを造ります。
・酵母が少ないと大量の米を発酵することができないため、酵母を培養して酒母を造ります。
・酒母ができたら、酒母と大量の米、水、麹を使って醪を造ります。
・醪の発酵が進んだら、醪の上槽、貯蔵、ビン詰を経て出荷されます。
麹やら、酵母やらの菌類や、欧州の何百年も前から熱による殺菌まで使って造られている日本酒。
その上でさらに、新商品や新しい酵母の開発にも余念がない日本酒。
杜氏や蔵人への感謝を忘れずに、美味しい日本酒を味わって飲みたいものですねぇ!
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