全国各地のお酒:東北編その2
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東北のお酒と東日本大震災
東北の日本酒造りの歴史は古く、江戸時代の初期から続いている創業2~300年以上の蔵元がたくさん残っています。
そのうえ、現存する東北最古の蔵元は創業500年を超えています。
そんな東北の酒蔵ですが、2011年に起こった東日本大震災で多くの蔵が被災しました。
地震による被害や、沿岸部では津波による被害により代々受け継いできた蔵の倒壊、あるいは半壊によって廃業に追い込まれる蔵元がありました。
さらに、原発事故の影響で避難を余儀なくされることで、歴史的な蔵元であっても廃業せざるを得ないケースもあったのです。
そんな大きな被害を受けた東北の蔵ですが、
地元や同業者同士で助け合い、規模の縮小や移転があったとしても、なお酒造りを続けていくことを選択した蔵元も多々ありました。
東北地方には白神山地、北上山系、蔵王山系等のいくつもの山々がつらなり、そこから湧き出る河川の伏流水や地下水が多くあります。
また、酒米に関しても豊富な種類があり、米どころでもある地方も多いため、地元のお米、自作米にこだわる蔵元が多いのも特徴。
これら酒造りには非常に恵まれた地域、そこで蔵を構える人々にとって、地震があろうとも酒造りを続けていく、日本酒造りとはそれほどに情熱を燃やせる仕事なのでしょう。
今回は引き続き、そんな東北で造られるお酒について紹介していきたいと思います。
乾坤一(宮城県 有限会社大沼酒造店 創業年:1712年、正徳2年)
比較的温暖で、遠く蔵王連峰を望む、宮城県南部の古き東北の商都、小京都村田町にある蔵です。
宮城県産のお米を使用したお酒造りにこだわり、中でも特筆すべきは本来酒造好適米ではないササニシキへのこだわり。
この酒蔵でつくるお酒の実に半分以上はササニシキを原料としています。
ササニシキの父米ササシグレや、愛国、ひより、蔵の華等々を使用、宮城県産のお米に対するこだわりはハンパではありません。
口当たりは柔らかで、とがったところやかけているところのない丸い味わい。
例えるならのびやかで、その滑らかさはシルクのようです。
実はササニシキって酒米なのかと勘違いするほどのクオリティの高さで、乾坤一は山の幸や山菜等の、ちょっと苦みのある食べ物との相性が抜群です。
雪の茅舎(ゆきのぼうしゃ 秋田県 株式会社齋彌酒造店 創業年:1902年、明治35年)
由利本荘市は、鳥海山の北麓に広がる山と川と海のある町です。
ここに、10月になると、蔵人たちが自ら栽培した秋田酒こまちを持って蔵入りします。
これにより、造り手のわかる酒造りになっているわけ。
高低差約6mの傾斜地に建てられている酒蔵は独特の構造になっています。
この構造の酒蔵の酒造りは、一番上の精米所に米が運ばれ、精米されるところからスタート。
その次は敷地内で湧き出す伏流水で仕込まれ、工程が進むにつれて下へ下へと移動していきます。
これは自然の地形をうまく利用した知恵の賜です。酒造りも、「櫂入れしない」、「ろ過しない」、「加水しない」という「三無い造り」という造りにこだわり、自然な発酵の力を見事に利用しています。
ゆきの美人(秋田県 秋田醸造株式会社 創業年:1919年、大正8年)
がっちりした鉄筋コンクリートの巨大な冷蔵庫のような建物で、秋田市内の繁華街近くに位置しています。
蔵内は真夏でも涼しく、四季を通じて酒造りができる環境。
蔵元杜氏は精密機械工学科出身で、少数精鋭の小仕込み、手間暇かけて酒を醸しています。
手間暇かけてとはいっても、そこは精密機械工学科出身、意味のある手間暇しかかけません。
麹を冷凍して保存する等、今までの蔵にはない合理的な発想もあり、最新鋭の設備も導入し、革新的な酒造りを行っています。
その一方で、全量手間のかかる麹蓋にこだわるなど、昔ながらのやり方を守っている部分もあり、守旧でありながら革新的。
出来上がる酒は軽快でコクのある味わいで、さわやかな甘味ときれいな酸味が調和したお酒です。
新政(秋田県 新政酒造株式会社 創業年:1852年、嘉永5年)
21世紀に入ってからの新生「新政」は、6号酵母、生酛系酒母、木桶仕込み等々、地域性と伝統的製法にこだわっています。
まさに原点回帰というべきこだわり。
実は昭和初期の「新政」中興の祖が、超高度精白の実践、協会6号酵母の分離など、醸造の歴史を大きく変える功績を残しています。
「新政」は、日本酒の変化を引っ張ってきた歴史があるんですね。
こだわりは上記にとどまらず、醸造用アルコールどころかラベル表記義務のない副原料についても一切使用しないといったところまで。
ここまでは原点回帰の範疇ですが、「新政」のすごいところは回帰のみにとどまらず、「低アルコール原酒」、「白麹酒母」などの新しいチャレンジも行うところ。これらの新しいチャレンジが、日本酒を変えつつあります。
酸味に特徴があり、香りやうまみがすっと抜けて次に手が伸びてしまうのが特徴。
おつまみがなくてもどんどん飲めちゃいます。
山和(宮城県 株式会社山和酒造店 創業年:1896年、明治29年)
山形と宮城の県境にそびえる船形山系の伏流水に恵まれた、周囲はブナの森や田園地帯等自然豊かな地域に山和の蔵はあります。
現在6名いる蔵人は、20~30代と若く、その中には宮城県初となる南部杜氏資格を持つ女性蔵人も。
酒母担当で奮闘しています。酒造りは宮城県で開発された酒米である「蔵の華」と、宮城県の酵母を中心に行われています。
仕込み水は前述した船形山の伏流水、こちらは軟水で、柔らかい口当たり。
これでつくられるお酒の特徴は、まず香りがバナナ、イチゴ、メロンのようなさわやかな吟醸香であるということ。
味わいはすっきりとしていて、酸味や雑味のない透明感のある優しい味わいです。
これらの香味やうまみのバランスがばっちりで、何の違和感もなく体に吸収され、しみわたっていきます。
天の戸(秋田県 浅舞酒造株式会社 創業年:1917年、大正6年)
横手盆地には奥羽山脈から皆瀬川が流れ下り、地下には同水系の伏流水が流れています。
これはつまり、半径5kmの範囲で作られる米と、仕込まれる酒が同じ水を使っているということ。
この「水」と、糀を多く使う食文化に慣れ親しんだ「舌」での酒造りは、秋田の「あまごい(甘濃い)」味付けの料理や漬物等々に合う味の酒が出来上がります。
このお酒は、軽めの味わいなのに飲み進めると軽さの底にあるしっかりしたコアの味が見つかる、というもの。
「そうやって探し当てた味は、心に残る」
という杜氏のメッセージが込められています。
鹿児島の焼酎杜氏との交流から、焼酎用麹を使用した酒母の日本酒造りを日本で最初に始めるなど、新進気鋭の杜氏でもあります。
まんさくの花(秋田県 日の丸醸造株式会社 創業年:1689年、元禄2年)
蔵名の「日の丸」は、秋田藩主佐竹公の紋所に由来します。日本有数の豪雪地帯である増田町は、横手盆地の南東部に位置し、清らかな自然環境が極上の軟水である伏流水を育みます。
この伏流水が、「まんさくの花」が目指す、「きれいで優しい酒質」に最適。無垢な柔らかさが際立ちます。
こだわりは低温ビン貯蔵。最低でも1年以上寝かせたものが定番で、まんさく酒質と呼ばれます。
酸は極端に高くなく、角のとれた上品な味わいが特徴で、リンゴ、バナナ、桃が絶妙にバランスのとれた香りを持っています。
使用する酒米の6割以上は「チーム日の丸」社員と、地元の酒米研究会が作る契約栽培米というこだわり。
まとめ
・震災後も、東北の酒蔵はたくましくお酒造りを続けています。
・吟醸香にこだわる酒蔵も多いです
・革新的な取り組みをする酒蔵も
・伝統的な酒造りにこだわる酒蔵もたくさんあります
各地で作られる日本酒のバリエーションが豊富過ぎて、実はこの記事で一番大変なのがこのまとめ(笑)
まだまだあるのに、どーしよう!?
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