オクトーバーフェストに日本からの酒豪現る

2020年1月15日

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オクトーバーフェストとは

オクトーバーフェストという祭りを知っているか?

南ドイツの都市ミュンヘンで毎年開催されているビールの祭りだ。

会場には無数のビアホールが設置されて、
ジェットコースターまで含んだいろんなアトラクションまでが仮設で建てられる、
そんな世界最大級の酒の祭りだ。

もう二年前のことだが、
おれはそこに参加した。

ドイツへ短期留学をしたときのことだった。

まだ大学生のおれは初めての海外で浮かれ、
まあ、語学の勉強もそこそこにあっちこっち観光して歩いたり、クラスにいるいろんな国の人と遊んでたんだが、

その留学も終盤になってちょうど開催されたオクトーバーフェストにコロンビア人の男友達と二人で行ってみたんだ。

会場で偶然

だだっぴろい会場を歩いて、
おれたちはある場所でいよいよビールをいただくことに決めた。

屋外の、乾いた風が吹き抜ける場所だ。

その一席に腰を下ろそうと思った。
すると、その近くにある日本人の男がいるのにおれは気づいた。

別に日本人観光客はオクトーバーフェストでは珍しくもないんだが、どうにも見覚えがある。

で、まじまじ見て見たところ、
それはおれの所属している研究室の先輩で、いま博士課程に在学中のKさんだったんだ。

Kさんは研究の方で熱心なことで知られている。
専門はヘーゲル哲学らしい。

若手のホープとして学会での評判も上々で、
すでに他大学で非常勤もやってるとのことだ。

おれはKさんに話しかけた。

すると、あっちもおれの顔を覚えていてくれたらしく、快く挨拶を返してくれて、隣の席をすすめてくれた。

Kさんは国際学会参加のためにドイツを訪れているとのことだった。

それからおれはKさんと「奇遇ですね」なんて話しながら、少しは慣れたドイツ語でオーダーを通した。

で、いざ本場ビールが目の前にどかんと置かれてびっくり、それはとんでもない大きさだった。

普通、日本で生ビールを注文したら500mlとかそんなもんだろう。

しかしあっちは違う。
マースと言われる巨大なジョッキになみなみと注がれたビールの量はなんと2リットルだ。

細い腕をしてるおれには、
片手で持てないほどの重さだ。

一杯飲みきることだって、普通の日本人には難しいだろう。

そのKさん、実は・・・

実際、その先輩はすでに三十分ほど前からいるようだったが、目の前のビールは半分程度。

ああ、やはり飲みきるのは難しいのだろうなと独り合点しそうになったところ、

Kさんいわく「おれはもう3杯目だ」とのこと。
私は耳を疑った。

「先輩、これ、一杯で2リットルあるんですよ」

「知ってるよ」

「…………」

それから、3人で席についてひたすらビールを飲んでいたのだが、

実際、その先輩Kさんの酒豪っぷりは半端なものではなかった。

夏のドイツ特有の長い長い昼が終わり、
ようやく日が暮れてくるころには、
先輩は5杯のマースを飲み干していたのだ。

つまり、その摂取量、実に10リットルである。

もしトイレに立っていなければ、
体重が10キロ増えているところだ。

おれは半分が限界だった。
といったって、それでも1リットルだ。

普通の日本人としてはがんばった方だろう。

けれどKさんの酒豪ぶりは度外れていた。

ふだん酒に強いと豪語していたコロンビアの友人も、Kさんの飲みっぷりには呆れていたくらいだ。

やがて遅くなり、
おれたちはそれぞれ帰路に着いた。

おれがヘロヘロになっているその一方で、

Kさんはまったく酔っ払った風もなく、
しっかりした足取りでホテルへと戻って行った。

あとで帰国してから聞いたところ、
この翌日にあった学会ではしっかりと発表をこなしたとのことだった。

Kさんの本当のすごさ

そんなことがあった翌年、
Kさんは晴れて関西のとある国立大学に就職が決まった。

研究者のあいだではヘーゲル哲学の研究がすばらしいと評判のようだが、

いや、Kさんの本当のすごさはあの酒の飲みっぷりであると、おれは思う。

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