日本酒造りでとても重要な、米と水

2017年4月27日

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材料が悪ければ、いいものは造れません

日本酒に限らず何を造る時もそうですが、いくら造る人の腕が良くても、

いくら造る工場なんかの設備が最新のもので、整っていたとしても、

材料が悪ければいいものは造れませんよね。

材料の鮮度や、保存状態、そもそも材料そのものが良いものかどうか、というのも問われます。

日本酒において、いい材料を使わないと!となるのは、米と水。

この二つが悪いと、いかに酒造家たちの腕が良くても、なかなか美味しい日本酒にはなりません。

今回は、この米と水についての基本的な知識について書いていこうと思います。

日本酒に使われる米と、普段食べている米は違う

日本酒の原料が米、というのは多くの人がご存知かと思いますが、

日本酒の原料となる米が、普段私たちが炊いて茶碗に盛って食べている米と違う、

というのはご存知でしょうか?

「山田錦」「五百万石」「美山錦」これらは日本酒の原料となる米の品種名です。

この名前を日本酒のラベルなんかで見たことがある方はいるかも知れませんが、

じゃ、普段買うコシヒカリとか、ササニシキとかと一緒に、

山田錦が並んでいるところは見たことないですよね。

山田錦等の酒造り専用に用いられる品種を総称して、「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」と言います。

名前の通りお酒造りに適した米で、普段我々が食べている米に比べると粒が大きく、

粒の中心に心白(しんぱく)と呼ばれる白色で不透明な部分があります。

これらの酒造好適米は、食用米に比べて、
1.吸水が早い
2.もろみで溶けやすい
3.麹をつくると、菌糸が中心部へ伸長しやすい(このことを、専門用語で「ハゼ込みがよい」といいます)

などの特徴を持っており、これらが酒造りの面から見て有利な特性となっています。

成分の面から見ても、酒の雑味となるたんぱく質が少ないという特徴があり、

その点でもお酒造りに向いているんですね。

農林水産省でも、食用米の「水稲うるち玄米」とは別で、

酒造好適米には「醸造用玄米」という農産物規格を定めているほどで、

いかに日本人が日本酒が好きか、ということが言えると思います(笑)

お酒造りに適した水

清酒を造るには、仕込む白米の10倍の量の水が必要になります。

水は米を洗ったり、仕込みに使ったりするほかにも、

割水といって原酒に加えてアルコール分を調整したり、

器具類を洗う洗浄水としても使われます。

飲んでおいしく、清酒が造りやすい水であることが条件となります。

具体的に言うと、

色→無色透明
臭い・味→異常がないこと
pH→中性または微アルカリ性
鉄・マンガン→0.02ppm以下
有機物→5.0ppm以下
亜硝酸性窒素→不検出
アンモニア性窒素→不検出
細菌酸度→0.5ml以下
生酸菌群・大腸菌群→不検出

となります。

特に影響を与えやすいのが鉄。

人間の血液中のヘモグロビンを形成する、体にはなくてはならない水ですが、

鉄が清酒に入ると赤褐色に着色し、香りや味を悪くします。

これに関してはかなり厳しい基準が設けられており、

上記の0.02ppm以下という基準は、水道水の10分の1以下という基準(水道水の鉄は0.3ppm以下)です。

いかに鉄に対して気を使っているかということがお分かりいただけるのでは。

名水あるところに清酒の蔵元あり、ということで、

清酒の二大産地である灘と伏見には、環境庁の名水百選に指定される有名な水があります。

名水その1.灘の宮水

江戸時代の後期、魚崎(現在の神戸市)と西宮(現在の西宮市)に蔵を持つ、山邑太左衛門という人がいました。

二つの蔵の日本酒を比べたときに、西宮の蔵の酒質が常に優れていたそうです。

山邑太左衛門はそれを不思議に思い、その原因を研究したそうです。

お酒を管理する杜氏や、道具を替えてみましたが効果はなく、

天保11年(1840年)、西宮の水を魚崎に運んで仕込みを行ったところ、酒質が向上したそうです。

西宮で使用されていた水というのが、

六甲山系に降った雨が夙川(しゅくがわ)の伏流水(ふくりゅうすい:極めて浅い位置にある地下水)となり、

西宮神社近くの一体で湧き出してきたもの。

この水こそが、西宮の優れた酒の秘訣だったんですね。

今なら水を科学的に分析して酒に合う水、合わない水も分かるかもしれませんが、

江戸時代後期にそれを発見した山邑太左衛門、すごい男ですな。

道具や人を替えるのはわかりますけど、水に気付くのはすごいな~・・・

ともあれ、この山邑太左衛門の発見以降、灘の酒造家達はこぞって西宮の水を使うようになったとか。

みんなが使うようになると、「西宮の水」が略されて、

「宮水」と呼ばれるようになったということです。

ちなみにこの宮水が酒造りに適している理由は、

醸造に有用なカルシウム、リン、カリウム、クロールなどを豊富に含む一方、

酒の着色や劣化を促進する鉄分が極めて少ないため。

その理由は、宮水地帯の花崗岩質の砂層内には、貝殻が多く含まれるため、

浄水場の砂ろ過の工程のような形で不純物が少なくなる上に、

貝殻から適度にミネラルが補給されるから、と、考えられています。

名水その2.伏見の名水

「伏見」という地名は、かつて「伏水」と書かれていた時代もあったほど、

豊富な地下水に恵まれている土地だそうです。

中でも良質な水、伏見の七名水は、「七つ井」と呼ばれていました。

七つ井とは、「岩井」「常磐井」「春日井」「白菊井」「苔清水」「竹中清水」「田中清水」のこと。

さらに山上一帯に伏見城を築いた太閤秀吉は、

城内に「金名水」「銀名水」という井戸を掘りあて、茶の湯に使っていたと言われています。

残念ながらそれらの井戸は今ではほとんど枯れてしまっていますが、

現在でも京都の伏見区御香宮にある御香宮神社の境内にある御香水は残っています。

これは貞観4年(862年)に、境内から良い香りの水が湧き出し、その水を飲むと病がみるみる治った、という伝説を持つ水。

それをうけて時の清和天皇から御香宮名を賜ったという伝承が残っているそうです。

この御香水は、1985年に環境庁(現・環境省)が選定した、名水100選にも選ばれています。

ちなみにこの伏見の水が酒造りに適しているのは、

やはり劣化の原因となる鉄分が極めて少ないことが一つ。

さらに、カリウムやカルシウムが適度に含まれた中硬水なため、発酵が穏やかに進むこと、

それによりきめの細かい、伏見の日本酒独特のまろやかさが生まれるんですね。

今でも伏見の酒造家はこの水を守るために様々な活動をしているそうです。

水の違いによる日本酒の味の違い

「名水あるところに名酒あり」なんて言葉がありますが、

この水の違いが日本酒にどのような影響を与えるのでしょうか?

いろいろ要素はありますが、ここでは水の「硬度」についてお伝えします。

「硬水」「軟水」という言葉を聞いたことがある人は多いかと思いますが、

その硬度、何によって変わるかご存知でしょうか。

自然に湧いているいわゆる天然水は、地中に雪解け水や雨水がしみこみ、

地層中でゴミをろ過、さらに地層中のミネラルを吸い取って湧き出します。

地層中のミネラルとは、具体的にはカルシウムやマグネシウム。

これらが水にどれくらい含まれているかで硬度が決まり(多いほど硬度が高い)、

さらに言えば各国でこの地層を形成する成分が違うので、

国によって天然水の硬度が高かったり低かったりするんですね。

ちなみに日本はほぼ軟水で、ヨーロッパは硬水が多いそうです。

この硬度がお酒に与える影響ということで言いますと、

大雑把に言えば硬度が高いと芯のある辛口な日本酒が、

軟水だと口当たりのいいまろやかな日本酒が出来上がります。

今回紹介しました灘の宮水は日本酒の材料となる水としては最も硬度が高く、

しゃきっと芯のある、辛口な日本酒になります。

伏見の水はそれより硬度が低く、なめらかでしっとりと甘みのある日本酒が出来上がります。

ちなみに、それ以外の土地も含めて有名な酒どころの水を硬度順に並べると、

硬度:高 

兵庫(灘)

京都(伏見)

新潟

静岡 

硬度:低

静岡のお酒は非常にあっさりしているんですよ~

まとめ

・普段食べている米と、お酒用の米は違います
・水も日本酒造りには非常に重要です
・有名な水は、灘と伏見
・各地の水の硬度がお酒の味に影響を与えます

灘の水は硬度が高いとはいえ、世界的に見ればかなり軟水寄り。

硬水過ぎると日本酒はつくれないのかな?

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